大手の医療機関に勤務している外科系の医師からのご相談の事例です。
お客様の希望等
お客様ご自身のライフプランがあり、近い将来、独立開業して臨床経験で培った手技をさらに生かしていきたいとのご希望がありました。
ご相談当初、「開業するなら、このあたりがいい」というご希望の地域はありましたが、まだ具体的ではありませんでした。
お客様の当時のお勤めは、診察等の臨床現場の業務はもちろん、管理職としてマネジメント業務もあり、具体的にプランを進めていくための時間も取れないような状況にありました。
コンサルティングの展開①(開業場所の確保)
お客様は、開業にあたり人員計画や資金計画の大まかなイメージはお持ちでしたが、開業場所が確定していないので、そこから先の計画が進まない感じでした。
当社として、診療圏や収支計画等のシミュレーションをして、お客様のご希望を勘案したうえで、二つの地域に絞って提案しました。
マクロ立地としては、二つの地域とも複数の路線が交差するターミナル駅であり、ある程度の集患を見込める地域ではありますが、ミクロ立地次第で状況が大きく変わってくることは、それまでの経験からも明白でした。
当社の強みのひとつは不動産業者であることです。土地や建物等の情報は、一般の方にオープンになる前に、いち早く入手することができます。すぐに候補地域の不動産情報を収集し、お客様へのご案内に先駆けて、複数の物件を下見しました。市場に流通している情報の中で、厳選した物件をお客様にご提示させていただきました。
この段階で、お客様のご希望条件である広さやご予算にマッチした複数の物件と、予算をオーバーするものの、駅前のランドマーク的なビルにある不動産のプロの目から見たお勧めの広めの物件も合わせてご案内しました。
お客様は、当社のお勧め物件について、予算をオーバーしても立地の良いことや、面積が広いことにより、並行して診察や処置が行えるスペースを確保できると前向きに捉えていただき、採算も合いそうだとの判断で、具体的に検討していただくことになりました。
しかし、問題が起きました。
お客様の次のお休みに合わせて内見の申し込みをしたのですが、良い物件は引く手あまたです。貸主側の不動産業者との協議の中で、すでに具体的に検討を進めている小売業の法人がいることが分かりました。
その法人は、一両日中に物件の申し込みをする可能性がありそうで、このままのスケジュールでは後れを取ってしまい、好立地の開業場所を確保することは出来なくなってしまいます。
お客様にすぐ状況をお伝えしました。無理は承知でしたが、当社から「今日、物件を見る時間はありませんか?」と打診しました。お客様も当社からの切迫した状況を感じていただいたのか、即手配していただき、「私は行けないが、代理の者を行かせる」との返答がありました。ちなみに、代理の方とは独立時の開業メンバーのうちのひとりです。
当日遅い時間ではありましたが、代理の方に見学していただきました。広い部屋の開放感を実感して、気に入っていただいた様子でした。内見時に建物内部の写真や動画を撮影し、代理の方からお客様に、現地の状況や印象を説明していただくことになりました。
翌朝、お客様から「物件を申し込む」との連絡をいただき、即物件を押さえました。事業に成功する方に共通していると思いますが、ここぞというタイミングで、素早く決断することの大切さを改めて感じました。
(ちなみに、申込日の夕方に、以前から検討されていた法人から申し込みたいとの連絡が入ったそうです。数時間遅ければ、その後の展開も大きく変わるところでした。)
コンサルティングの展開②(設計プランの確定と施工業者の選定)
当初の予定では、お客様の方で設計施工を依頼したい業者があるということで、当社のコンサルティングは、いったん終了しました。
ところが、2か月ほど経過した後、お客さまより連絡が入りました。
見積もりを依頼した2社から建築プランが出てきたので、意見を聞きたいとのことでした。
プランを始めて見たときに気になる点がいくつかありました。
具体的には、診察室や処置室の広さは確保されている一方、待合室やパウダールームのスペースが窮屈そうなこと、間仕切り壁と窓枠の接合部の寸法が合わないために、診察室にすき間ができて音漏れが懸念されること、また、通路に曲がりが多いため、患者様とスタッフの動線が交錯するところが多いこと等が気になりました。
また、施工業者によると、既存のエアコン配管にキャパシティがあるため、診察室や処置室等の個室の数を増やしてしまうと既存の空調設備では収まらず、別途共用部分に追加機器を設置するためのスペースを確保しなければならないという問題が生じてしまうということでした。それには、ビルのオーナーの承諾が必要であることと、将来大きな原状回復コストの負担も必要なのですが、オーナーの承諾を得られるのかは疑問でした。
着工の時期が迫っていたため、お客様から連絡を受けた翌日に施工業者の訪問に同行しました。
若いスタッフが多く活気を感じる会社ではあったのですが、施工業者の都合で工事を進めていこうとする姿勢に違和感を覚えました。
その後、当社と長いお付き合いのある施工業者に事情を説明し、見積もり金額の妥当性の検証を依頼しました。また、空調設備業者に現地調査を依頼し、既存配管の利用を前提にエアコンを設置することができないのか、検討を依頼しました。
ここで、当社からお客様に施工プランの確認と施工金額の検証のために、計画を一時中断していただくよう依頼しました。
設計プランも当社の目線で見直しを行い、診察室や処置室の扉の形状を開き戸から引き戸に変えて有効スペースを増やすこと、待合コーナーやパウダールームの間口をゆったりと利用できる寸法に広げること、廊下幅を行き来に支障ないよう広く設定すること、受付やバックスペースのスタッフ動線を機能的にすること等、基本間取りを大きく変えない前提で、全面的な調整を行いました。一級建築士や風水の専門家の意見を聞いて、診察室や院長執務室等の配置や動線を検証していきました。
また、懸案のひとつである空調設備は、エアコンメーカーの協力を仰ぎながら、既存の配管を利用しつつ、各個室にエアコンを配置する手法を実現しました。
コストは、仕様を上げて増額する部分と無駄を省いて減額する部分のメリハリをつけて、当初予算に収まる金額に抑え、当社が関わって調整したプランで施工することになりました。
さらに、設計プランが確定した後、墨出し(工事に必要な線や位置などを床や壁などに表示する作業)を行い、お客様に現地で実寸を体感していただきました。
やはり、図面で見るイメージと原寸では、ギャップのある箇所がありました。ここでも、設計変更を行い、各所の寸法をお客様の使い勝手の良いように微調整し、お客様に十分納得していただいたうえで正式着工の運びとなりました。
工事期間中も節目で、お客様には現場に足を運んでいただきました。
特に受付周辺は、スタッフの執務効率を考えながら、患者様にも快適に利用していただくことが必要です。利用する機器の寸法や配線等細かい点にも配慮しながら、使い勝手という人間工学の視点も取り入れて、お客様と随時確認しながら工事を進めていきました。
工事期間中も都度協議する時間を取り入れたので、工期は当初の予定より延びましたが、お客様にご満足いただける仕上がりとなりました。
コンサルティングの展開③(什器備品とサイン計画)
工事竣工後も引き続き、診察室の机、椅子、荷物置きのワゴン、待合室のテーブルやソファ等の什器(家具類)と絵画や写真等の装飾品を含めて、追加のご提案をすることになりました。
お客様からは、老若男女を問わず、幅広い患者様に利用していただけるよう、シンプルかつ、安らぎを感じるプランにしてほしいとのご要望がありました。
風水のコーディネーターに監修を依頼し、配置や色彩の意味づけをプランに取り入れました。また、統一感を出す場所とアクセントをつける場所の使い分けも意識しました。
北欧の家具メーカーや文具の通販サイト等も利用することで、コストを最小限に抑えることも念頭においてプランを進めました。
さらに、エントランス、受付や各部屋を表示するサイン計画は、ロゴマークや家具のトーンに合わせて、シンプルで穏やかな印象を演出できる空間づくりをイメージして行いました。
当初のコンサルティングのご依頼から、実際に当社の対応する範囲は広がりましたが、お客様のご満足を得られるクリニック開業の事例となりました。
コンサルティングのポイント
・不動産業者ならではのネットワークと交渉力を生かした開業場所の確保
・患者様のアメニティとスタッフの執務動線の両立した設計プランの修正
・既存配管を利用した全個室の空調設備の実現とコストダウンの両立
・風水も取り入れた各室の配置と家具や装飾品の設置
プライバシーに配慮し、個室化した待合コーナー
患者様やスタッフもゆったりとすれ違うことができる廊下
シンプルで落ち着いた雰囲気の診察室兼カウンセリングルーム